~saiya/hatenablog

No Code, No Life.

2つの封筒問題(パラドックス)の無限や極限値の問題としての考察

確率系のパラドックスで有名らしい "2つの封筒問題" なるものを知ったが、これは本質的には確率の問題というよりも無限や極限値にまつわる問題ではないか?ということに気づいたので、ぐぐって出て来る色々な解説とは少し違う観点でそのパラドックスのトリックを考察してみた。

Disclaimer: 筆者は数学のプロではないので、論理の曖昧さや穴がある可能性は大いにありえます。無限の扱い・理論はとてもむずかしい...。

2つの封筒問題とは

ぐぐると色々なページが出てきますが、いずれも以下のような内容:

2つの封筒がある。片方の封筒には、もう一方の2倍のお金が入っている(たとえば1万円と2万円など)。

プレイヤーはどちらかの片方だけの封筒をもらえる。

さらにプレイヤーはどちらか片方の封筒をあけて中身を見て、その上でどちらの封筒を取るか決めることができる。

片方の封筒をあけて中身を見たとき、封筒を変えた方が得か?損か?変わらないか?

 

Aさんは次のように考えた。

開けた封筒に1万円が入っていたとすると、もう一方の封筒には5千円か2万円がそれぞれ確率1/2で入っている。

よってもう一方の封筒に入っている金額の期待値は12,500円なので、封筒を変えた方が得。封筒にいくら入っていようと同じ計算ができるので、結局封筒を変えた方が得である。

 

一方Bさんは、どちらの封筒も区別できないのだから、金額が大きいほうの封筒を引く確率は1/2で変わらないと考えた。

 

AさんとBさんの言い分はどっちが正しいのか?それとも2人とも間違っているのか?

一見すると確率についてのパラドックスのように見えるが、実はこのパラドックスには無限を使ったトリック(と読者に無意識に仮定を持たせる叙述トリック)がある、というのが本稿の内容。

( 上記http://tasusu.hatenablog.com/entry/20100606/1275832157 より引用 )

TL;DR

  1. 出題者側が封筒に  +\infty のお金を詰めるのが期待値、という結果を招く暗黙の前提がこのパラドックスのキモである。
    • 「出題者側が封筒に詰める金額の期待値」が  +\infty となるロジックになっている
    • 上記を是とするならば、実は常に封筒を変えた方が得という結論は正しい
  2. かといって金額に上限を設けると、それを元に封筒を替えるべきかどうかが推測できてしまう
  3. 金額上限を設けずかつ金額の期待値が有限の値となるようにしようとすると、どこかしらでギャンブルとして破綻する

このように、問題設定をどのように解釈したり補ったりしてもギャンブルとして成立しないのではないか、という話。

問題文の穴

上記パラドックスには、以下の部分に論理の飛躍が含まれている:

開けた封筒に1万円が入っていたとすると、もう一方の封筒には5千円か2万円がそれぞれ確率1/2で入っている。

ここには以下の点で論理の飛躍がある:

  • 出題者は金に糸目を付けずにあらゆる金額を均等な確率で選ぶはず、という仮定(決めつけ)を置いている
    • 例えば「出題者は高い金額ほど出したがらない」といったバイアスがあるならば 1/2 とは断言できなくなる
    • あるいは、もしかしたら逆に「高い金額ほど出したがる」というバイアスがかかっているかもしれない

ぐぐって出てくる多くの記事などでもこの飛躍に言及されていることが多いが、しかし問題文では上記の仮定(決めつけ)を否定もしていない。なので、本稿では上記の仮定が誤まりであるとは決めつけずに考察してみるとする。

お金を出す側(出題者)の気持ちになって考えてみよう

出題者がどのような基準で金額を選んだ場合に、2つの封筒問題は成立するのかあるいはどのような矛盾をきたすのか、問題文で曖昧になっている部分について考察してゆく。

出題者が金に糸目を付けずにあらゆる金額を均等な確率で選ぶとどうなってしまうのか

開けた封筒に1万円が入っていたとすると、もう一方の封筒には5千円か2万円がそれぞれ確率1/2で入っている。

まず、↑の論理が成り立つような出題者を想定してみる。つまり、以下のような出題者を仮定する:

  • 出題者は出す金額に限界を設けない
    • 出題者がどこかしらに限界額を設けてしまうと、回答者にとっては開けた封筒の金額の2倍が限界を超える可能性が常にあるということになるため、確率 1/2 とは言えなくなってしまう *1
    • 限界額が存在するとしたらどうなるのか?は後述
  • 高い金額ほど滅多に出さない、といったバイアスも掛けない
    • バイアスを掛けていると、やはり確率 1/2 とは言えなくなる

上記を前提とした場合、「出題者側が封筒に詰める金額の期待値」が  +\infty になってしまう。出題をするためにはまず1つの封筒の金額を決めるはずだが、なにしろ 0円から  +\infty 円 の範囲内で均等にランダムに金額を選んで出題する*2ことになってしまうので、ランダムに選んだ結果の金額も無限に大きな数値になるということになってしまう。

そのようなトンデモナイ出題者がいると仮定した場合、実は "封筒を変えた方が得" ではある。なぜならば手元の開封済みの封筒に 1 万円が入っていようが 1000 億円が入っていようが 5000 兆円が入っていようが、この出題者が封筒に入れる金額の期待値  +\infty よりは小さいからである *3。よって、封筒を交換したほうが高い金額を得られることが期待できる *4

一見不思議な結論だが、以下のように捉えると直感的かもしれない:

  • 無限の金額を突っ込む出題者などというものを前提に置く以上は、手元の封筒の金額より大きい金額が出現やすくなる
  • 手元の封筒の金額を x 円とするとき、 [0, x) の区間と (x,  +\infty) の区間では後者のほうが大きい、よって x より小さい数値より大きい数値の方が出やすい

出題者の出せる金額に限界があるとするとどうなるか

では、もう少し現実的に考えて、以下のように仮定するとどうなるだろうか:

  • 出題者には実は封筒一つあたりの金額の限界があり、その範囲内で金額を選んで封筒を出す
  • ただし、回答者には上記の限界は知らされておらず、推測することも全くできない

おそらく多くの人が2つの封筒問題を見たときに暗黙のうちに想定しているのも上記のような前提ではなかろうか。

しかし実は上記の前提だけでは先述の  +\infty を封筒に入れてくる出題者と同じ状況なってしまう。なぜならば金額の限界が「まったくわからない」ということは、出題者の限界は実は 1000 億円かもしれないし 5000 兆円かもしれないし 1 無量大数円かもしれないし....となってしまうためである *5

ここで、さらに常識を働かせて「現実的に考えて限界はせいぜい 10 万円とかだろう」「1000 円では賭けが成立しないだろう」といった前提を置くと、今度はそれによって封筒の金額が絞り込まれてしまう。せいぜい最大 10 万円・最小 1000 円と考えているならば、手元の開封済み封筒が 49,500 円以上か未満かで封筒を替えるべきかどうかは自明である。

つまり、常識的な仮定によって金額の範囲に前提を置いてしまうのであれば、封筒を交換すべきかどうかは封筒の金額によって定まる、といえる。

金額には限界を設けない代わりに、高い金額ほど出る確率を下げる、という出し方ならどうか

上記の通り、金額に上限を設けたり上限が推測されたりしてしまうと、封筒を交換すべきかどうかは計算で判定できてしまう。

では、金額に上限を設けない代わりに、高い金額ほど出る確率を下げる方式はどうか。そうすれば、回答者が金額の上限を元に判断することができなくなり、同時に金額の期待値が  +\infty になることで破綻する問題も回避できるのではないか、という考え方である。

2つの封筒問題について言及している記事の複数で見られた例として以下のようなものがある:

封筒に入る金額は(2n円,2n+1円) (n=0,1,2,…) のどれかで、ペア(2n円,2n+1円)が選ばれる確率は  \frac{2^n}{3^{n+1}} である。

2n円(n>0)が入っていた場合、ありうるのは(2n-1円,2n円)か(2n円,2n+1円)で、それぞれ(事後)確率は3/5, 2/5である。これで期待値を計算すると、  \frac{11}{10}\cdot2^n 円になり、やはり変えた方が得である!

( 出展: たのしい確率 〜2つの封筒問題〜 - むしゃくしゃしてやった,今は反省している日記)

今回の前提では、たしかに以下の好ましい性質が満たされているかのように見える:

  • 金額の期待値が  +\infty になってしまい、常に封筒の交換が正解になってしまう問題が回避されている
    • ついでに、出題者が破産するリスクも 0 ではないが大分下がっていそうに見えるが...?
  • 金額の上限が定まらないので、回答者が 上限/2 と見比べて封筒を替えることができない

では検証として、この例において「出題者側が片方の封筒に詰める金額の期待値」を計算してみるとどうなるだろうか。金額を 2n と置くと、その金額を選ぶ確率は  \frac{2^n}{3^{n+1}} であるとのことである。期待値は、選びうるすべての金額にそれぞれの金額が選ばれる確率を乗じた結果の和であるので、

{\displaystyle
  {\sum_{n=0}^{\infty} 2^n \frac{2^n}{3^{n+1}}} = {\frac{1}{3} \sum_{n=0}^{\infty} (\frac{4}{3})^n} = +\infty
}

となり、結局「出題者側が片方の封筒に詰める金額の期待値」が  +\infty になる*6ため、先に述べた無限の予算のある出題者と同じ状況となってしまっている。そのため、この場合でも封筒を交換するのが常に良い選択肢となるのは数学的に必然的である (出題者の破産リスクも無限に高いままである)。

封筒に詰める金額の期待値を有限の値に収束させるとどうなるか

ここまでの考察から、ギャンブルとしての予測不能性を持たせて成立させるためには以下が必要であることが分かる:

  • 封筒に詰める金額に上限は設けない
    • 上限を設けると、上限/2 と見比べることで封筒を替えるかどうかが定まってしまう
  • 出題者側が片方の封筒に詰める金額の期待値が  +\infty に発散しないこと
    •  +\infty に発散してしまうと、封筒を必ず替えるのが妥当となってしまう
    • こうすることで、出題者が破産するリスクも低くはなる *7

例えば以下のように設定することで上記の条件をみたすことが出来る:

封筒に入る金額は(2n万円,2n+1万円) (n=0,1,2,…) のどれかで、ペア(2n万円,2n+1万円)が選ばれる確率は  \frac{1}{2^{2n+1}} である。

この条件であれば、「出題者側が小さい方の封筒に詰める金額の期待値」は

{\displaystyle
\sum_{n=0}^{\infty} 2^n \frac{1}{2^{2n+1}} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2^{n+1}} = 1
}

より、1/2n の和が 1 に収束するため、1 万円に収束する。

しかし、封筒に入る金額ペアの種類がそもそも (1万円,2万円), (2万円,3万円), (3万円,4万円), ... なのに期待値が 1 万円というのは明らかに矛盾するように思われる、2 万円以降がなかったことになっているかのような結果になってしまっている。

この矛盾の原因は確率を  \frac{1}{2^{2n+1}} と定義したことに起因する。このギャンブルを成立させるためには、出題者は必ず何かしらのペアを出さなければならない(資金を出さないという選択肢がない)はずである。よって、全てのペアの出現確率の和はちょうど 1 になって然るべきである、が、ペアの出現確率  \frac{1}{2^{2n+1}} の全ての和を計算すると:

{\displaystyle
\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2^{2n+1}}
= \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2} \frac{1 - (\frac{1}{4})^n}{1 - \frac{1}{4}}
= \frac{1}{2} \frac{1}{1 - \frac{1}{4}}
= \frac{2}{3}
}

より 2/3 となってしまい 1 に満たない。よって、出題者が 1/3 の確率で何も出さないケースが生じてしまっている (それによって賭けの期待値が 1 万円になっている)。

即ち、

封筒に入る金額は(2n万円,2n+1万円) (n=0,1,2,…) のどれかで、ペア(2n万円,2n+1万円)が選ばれる確率は  \frac{1}{2^{2n+1}} である。

この前提をおいた場合、以下の条件は満たしているが、

  • 封筒に詰める金額に上限は設けない
    • 上限を設けると、上限/2 と見比べることで封筒を替えるかどうかが定まってしまう
  • 出題者側が片方の封筒に詰める金額の期待値が  +\infty に発散しないこと
    •  +\infty に発散してしまうと、封筒を必ず替えるのが妥当となってしまう

以下の条件を満たせていない、

  • 出題者は必ず 0 より大きい金額の封筒のペアを提示すること
    • 掛け金を出すのを拒否する行為(やマイナスの金額提示)は NG ということ
    • 即ち、金額の各種ペアを出す確率の総合計がちょうど 1 であること

これは考えてみれば致し方がない話であり、以下の理由でこのギャンブルを成立させるように数式を設計することが困難なのである:

  • 確率の総合計がちょうど 1 になるには、ペアの出現確率は単調に減少する数列*8でなければならない
    • 金額に上限は設けない → 金額のペアの種類は無数にある → 単調に減少する数列でないと、合計が 1 を超える
  • 確率はマイナスになりえないし、ペアを出さないのも NG なので、ペアの出現確率の数列は 0 より大でなければならない
  • ペアの出現確率の数列の合計値は 1 に収束しなければならない (1 未満は駄目)
  • 封筒に詰める金額に上限は設けてはならないため、当然、金額は  +\infty に発散する数列でなければならない
  • しかし、封筒に詰める期待値は  +\infty に発散してはならない (一定の値にならなければならない)
    • 期待値は ペアの金額 * ペアの出現確率 の全ペアについての和

これらの条件を満たす都合の良い数列 *9 は、筆者の考えうる限りでは作れそうにない。

それゆえ、(これらの条件を満たす都合の良い数列ない限り) 2 つの封筒問題はここまでに論じたいずれかの問題が発生してしまうためにギャンブルとして成立させることが出来ないのではないか、というのが本稿の結論である。

*1:開けた封筒の2倍の金額を出題者が出せないかもしれない可能性はあるのに、1/2 は常に出せることになってしまうので

*2:そもそも上限のない無限長の区間から金額を「選ぶ」という作業が可能なのか?という疑問はあるが。正しくは、0円〜n円 の区間から一様にランダムな金額を選ぶ期待値の Lim n → ∞ の極限値が発散する、と考えるべきであろう。

*3:あらゆる値より大きいというのが無限の定義だ、とも

*4: なお、(確率に関するパラドックス (その1))http://www.yoshizoe-stat.jp/stat/sinf9307.pdf によると、この状況で封筒を交換した結果より高い金額が得られる可能性は 2/3 であるとのことである。上記論文における「 θ の事前分布 p(θ) を 0 < θ < ∞ の範囲での一様分布として」仮定している計算が、ここで議論している状況と同じ状況を述べているはず

*5: このように、幾らでも大きい数を置くことが出来る、という考え方が無限の数学的定義そのもの...のうちの一つの基本的な考え方である

*6:手計算で期待値を計算してみても、期待値が際限なく大きくなることが分かる。単調増加する式なのでわかりやすいはず。

*7:とはいえ、金額上限を設けないため、運が悪いと駄目だが...。リスクが低くなるだけである

*8:1/2, 1/4, 1/8 ... のように常に値が小さくなる数列

*9:合計値が 1 に収束する正の単調減少数列なのに、その数列を  +\infty に発散する数列の各項に掛けると和が定数に収束する数列